
世界最大級のカクテル・スピリッツ業界イベント「Tales of the Cocktail® 2025」が2025年7月20日から25日まで、米国・ルイジアナ州ニューオーリンズで開催されました。アメリカン・クラシックカクテル発祥の地としても知られるこの地で行われる、このカクテルイベントは、今年で23回目を迎えました。三和酒類は「Tales of the Cocktail®」開催期間中、世界のトップバーテンダーを招き、スペシャルな焼酎カクテルを提供するポップアップイベントを実施しました。日本の食文化に欠かせない麹を使った「伝統的酒造り」による日本発の蒸留酒「WA-SPIRITS(和スピリッツ)」は、多くの人々に現地でどのような印象を残したのでしょうか――。「Tales of the Cocktail® 2025」の模様をレポートします
文:菅 礼子 / 写真:Nao Fukui / 構成:Contentsbrain
(冒頭の写真:Gonzalo Loayza )
ニューオーリンズの街が一体となる、権威あるイベントTales of the Cocktail®
2003年に1回目が開催された「Tales of the Cocktail®(以降、TOTC)」は、パンデミック中も中断することなく続き、2025年で23回目を迎えました。初回から会場となったニューオーリンズは、フランスとスペインの植民地文化が色濃く残る独特の街です。フレンチ・クオーターの優美な建築や独特な食文化をはじめ、ニューオーリンズならではのクレオール文化⋆1はアメリカの中でも際立った特徴を持っています。ジャズの巨匠、ルイ・アームストロングを輩出したジャズ発祥の地としても有名なこの街は、バーボンストリートを歩けば、そこかしこから生演奏が聞こえてきます。
「サゼラック」や「ハリケーン」に代表されるアメリカン・クラシックカクテル発祥の地としても知られるニューオーリンズ。TOTCは、この地でその歴史を刻んできました。約1週間にわたって行われたTOTC 2025は、メイン会場となったザ・リッツ・カールトン ニューオーリンズを中心に、セミナーやテイスティング、コミュニティイベントなど、350を超える催しが繰り広げられました。それらはメイン会場のホテルにとどまらず、街中のあらゆる場所へと広がり、ニューオリンズ全体が一体となって盛り上がる、いわば街全体を巻き込んだカクテルの祭典でした。
各国から多くの人々が来場し、昨年を上回る盛況ぶりを記録。このイベントのために世界中から集まったバーテンダーや飲食業界関係者、カクテルフリークたちが最新のカクテルトレンドを求めて街を巡る姿が見られました。イベントの最終日を飾るのは、カクテル界のアカデミー賞とも称される「Spirited Awards®」の授賞式。バー業界に従事する人々の功績をさまざまな観点から評価するアワードセレモニーは、7月24日にフィルモア・シアターで行われました。受賞者にとって最高の栄誉であるこのアワードの授賞式をもって、2025年のTOTCは幕を閉じました。
⋆1 クレオール文化: 異なる民族や文化が混ざり合って生まれた独自の文化を指す。特にカリブ海地域、米国・ルイジアナ州、インド洋の島々などで発展した文化形態を指すことが多い。

夜な夜な生演奏が聞こえてくるニューオーリンズの繁華街「バーボンストリート」
豪華ゲストバーテンダーが腕をふるう「iichiko The茶室(Tea Room) EXPERIENCE」
TOTC期間中の7月21日と22日の2日間、三和酒類は「iichiko The茶室(Tea Room) EXPERIENCE」と冠したポップアップイベントを、メイン会場であるザ・リッツ・カールトン ニューオーリンズにて開催しました。イベントには両日それぞれ、各国6店舗のバーから世界のトップクラスのバーテンダーたちが集まり、1日3つの時間帯に分かれ、各回2組ずつゲストシフトとして登場。
「iichiko彩天(さいてん)」や「いいちこシルエット」、さらに新商品の「iichiko心和(しんわ)」(2025年6月、米国で発売開始)を使用したスペシャルカクテルを振る舞いました。連日、来場者であふれる会場からもその盛況ぶりは明らかでしたが、注目すべきはゲストシフトを彩った豪華バーテンダーの顔ぶれです。
「iichiko The 茶室(Tea Room) EXPERIENCE」のゲストバーテンダー
7月21日
第1組
「Manhattan(マンハッタン)」/シンガポール
Alex Gilmour (アレックス ギルモア)、Riccardo Lugano(リカルド ルガノ)
「kumiko(組子)」/シカゴ
百瀬(ももせ) ジュリア
第2組
「Angel's Share(エンジェルズ シェア)」/ニューヨーク
今田恒孝(いまだ つねたか)
「Bar Goto(バー ゴトウ)」/ニューヨーク
後藤健太(ごとう けんた) 、臼井小春(うすい こはる)
第3組
「Side Hustle(サイド ハッスル)」/ロンドン
Leo Robitschek(レオ ロビチェック)、Davide Segat(ダビデ セガート)
「Kwãnt Mayfair(クワント メイフェア)」/ロンドン
Erik Lorincz(エリック ロリンツ)
7月22日
第1組
「Origin Bar(オリジン バー)」/シンガポール
Adam Bursik(アダム バルシク)、Nisa Treechanasin(ニサ トゥリーチャナシン)
「Martiny’s(マルティニーズ)」/ニューヨーク
渡邉琢磨(わたなべ たくま)、Ethan Sugar(イーサン シュガー)
第2組
「BAR HIGH FIVE(バー ハイ ファイブ)」/東京
上野秀嗣(うえの ひでつぐ)
「Bar BenFiddich(バー ベンフィディック)」/東京
鹿山博康(かやま ひろやす)
第3組
「The SG Club(ザ エスジー クラブ)」/東京
後閑信吾(ごかん しんご)
「Mace(メイス)」/ニューヨーク
Nico De Soto(ニコ ド ソト)
2日間で、計12のバーから17人のバーテンダーがゲストとして参加。The World's 50 Best Barsをはじめ、アジアや北米の50 Best Bars、さらにはTOTC「Spirited Awards®」での受賞歴やノミネート歴を持つ、世界で活動する実力者たちが「iichiko」のブース「iichiko The茶室(Tea Room) EXPERIENCE」で腕を振るいました。そのオリジナリティーあふれる本格焼酎カクテルを飲もうと駆けつけた来場者で、ゲストバーテンダーが変わる毎に長蛇の列ができ、会場は熱気に包まれました。

著名なバーテンダーたちのカクテルを目当てに「iichiko The茶室(Tea Room) EXPERIENCE」は終始多くの人で賑わい、行列ができた
振る舞われた本格焼酎カクテルは、個性豊か、国際色豊かなアイデアにあふれていました。アルコール度数43度の「iichiko彩天」「iichiko心和」、25度の「いいちこシルエット」というキャラクターの異なる本格焼酎を使用したカクテルは、それぞれの個性を最大限に生かす素材選びやテクニックが光ります。カクテルの高い完成度はもちろん、本格焼酎と意外性のある食材の組み合わせは、もはやガストロノミー⋆2の世界。
⋆2 ガストロノミ―:料理や酒などの食事全般を文化や芸術のレベルで考えること。

「Manhattan」の2人、Alex GilmourさんとRiccardo Luganoさんが「iichiko彩天」を使い作ったカクテル「NEW YORK SOUR」

「Bar BenFiddich」の鹿山さんのカクテルはスピリッツの特徴をつかんだ素材の組み合わせが光っていた

「iichiko彩天」を使った「Mace」のNicoさんが作ったカクテル「MASAKA」は、シャーベットのような軽さのある食感が斬新
「Side Hustle」の「SOBA COCONUT NEGRONI」や「Origin Bar」の粗挽き玄米茶を使った「NIKKEI」など、日本の素材を使ったカクテルも目立ちました。「The SG Club」の備長炭チキンを使ったスモーキーな「STRAWBERRY HOTPOT」や「Bar Goto」の「UMAMI MARY」のように、セイボリーと言われる、甘くない、風味のある食事のようなカクテルも注目を集めました。「本格焼酎にはうま味があります。海外でも”UMAMI”という言葉が浸透し、トレンドになりつつあります。本格焼酎はセイボリーなカクテルとの相性も非常に良いです」と「Side Hustle」のLeo Robitschekさんは言います。

「The SG Club」の後閑信吾さん。カクテルの概念を覆す料理のようなカクテルも披露
「本格焼酎は麹由来のうま味があるので、食事とのペアリングにも最適です。私のお店でもフードとのペアリングメニューを出していますが、本格焼酎は一番食事に合うのではないでしょうか」と「kumiko」の百瀬ジュリアさん。近年、焼酎カクテルも食中酒として楽しまれるようになってきましたが、麹由来のうま味を生かした本格焼酎は料理との相性の良さでも際立っていることがうかがえます。

Tales of the Cocktail®:Spirited Awards®のバー部門最高賞とも言える「World’s Best Bar presented by Tales of the Cocktail Foundation」に選ばれた「kumiko」の百瀬ジュリアさんもゲストバーテンダーとして登場
今回のポップアップイベント「The茶室 Tea Room EXPERIENCE」には世界トップレベルのアワードを受賞した著名バーから多くのトップバーテンダーが参加。そのラインナップの豪華さにも目を見張りました。
「Martiny’s」からはオーナーバーテンダーの渡邉琢磨さんとヘッドバーテンダーのEathan Sugarさん。「Bar Goto」からは、オーナーバーテンダーの後藤健太さんとヘッドバーテンダーの臼井小春さん、「Side Hustle」からはLeo RobitschekさんとDavide Segatさんなど、実力のあるバーテンダーたちがチームで参加し、オーナーバーテンダーだけではない、チームとしての層の厚さも感じさせました。
「私が独立する前に、お世話になった師匠のAudrey Saunders(オードリー サンダース)にTOTCに連れてきてもらったり、色々なイベントで活躍の場をセットアップしていただきました。今は自分が店を経営する立場になったので、実力のある若手にも色々な機会を与えたいと思ったんです」と後藤健太さん。
また、「Origin Bar」のAdam Bursikさんは「2人でチームを組むことで、お客さんにカクテルの説明をきちんとする時間を持つことができます。また、タイ出身のNisa Treechanasinさんはアジアの文化やテイストを理解しているので、彼女と組むことで正しい理解でアジアのテイストの魅力を伝えることができます」と語ります。

「Origin Bar」のNisa Treechanasinさんによる華麗なパフォーマンス

「Side Hustle」のLeo Robitschekさん(左)とDavide Segatさん。ロンドンの「The NoMad Hotel」内にある同バーはTales of the Cocktail® Spirited Awards® 2025で「Best International Hotel Bar」を受賞
「The茶室 Tea Room EXPERIENCE」は、和を感じさせるインテリアに加え、金継ぎ⋆3体験や扇子に筆で名前を書き込んでもらえるカリグラフィーサービスなど、日本文化を体験できるコンテンツも充実。来場者は、カクテルを味わうと共に、和の体験を堪能していました。
メイン会場内に設けられたポップアップバーには、焼酎カクテルを目当てに連日行列ができ、世界中の人々に焼酎の魅力をアピール。焼酎の認知度が年々向上していることを肌で感じられる場となりました。
「焼酎って何?という質問自体が少なくなりましたよね。それだけ浸透してきているんだと思います」と後藤健太さんは言います。また、来場者からも、「本格焼酎はもちろん飲んだことがあります。他のスピリッツと比べてもスムーズな飲み口なので、アルコール度数43度の『iichiko彩天』や『iichiko心和』も飲みやすいです」といったポジティブな意見が寄せられました。
⋆3 金継ぎ:日本の伝統的な陶磁器の修復技法。ひびや欠けた箇所を隠すのではなく、漆でつなぎ、上から金粉(または銀・白金)を施して修復する。修正箇所を強調し、新しい価値、新たな美しさを表現する。
日本勢が快挙、クライマックスは名誉ある「Spirited Awards®」授賞式
毎年、TOTCのクライマックスを飾るのが「Spirited Awards®」です。業界の中でも権威のあるこのアワードは、インターナショナル、USそれぞれの年間で最も優秀なバーやバーテンダーなどを選出。このほか優れたカクテル関連の書籍や媒体、業界に貢献した人物の表彰などを行い、今回19回目を迎えました。2025年はカンファレンステーマである「Evolve(進化)」にインスパイアされ、成長と変革を体現する方々がアワードに選出されました。
中でも世界中のバーの中で、提供されるドリンクや料理、サービスなどを総合的に評価し、業界内に革新的な影響を与えたバーに贈られる最も栄誉ある賞が「World’s Best Bar presented by Tales of the Cocktail Foundation」です。2025年、この栄誉に輝いたのは、百瀬ジュリアさんが率いるアメリカ・シカゴにある「kumiko」です。「kumiko」は同時に「Best U.S. Restaurant Bar」にも選ばれました。

百瀬ジュリアさんの「kumiko」は「World’s Best Bar presented by Tales of the Cocktail Foundation」と「Best U.S. Restaurant Bar」に選ばれた
(Photo Credit: Caitlyn Ridenour / Tales of the Cocktail Foundation)

後閑信吾さんが開いた「Sip & Guzzle」は「Best New U.S. Cocktail Bar」に、「Devil’s Cut」は「Best New International Cocktail Bar」をそれぞれ受賞
(Photo Credit: Caitlyn Ridenour / Tales of the Cocktail Foundation)
優れたバーテンダーに贈られる「International Bartender of the Year」は、香港の「Bar Leone(バー レオーネ)」のLorenzo Antinori(ロレンツォ アンティノリ)さんが受賞。「Bar Leone」は「Best International Cocktail Bar」にも輝き、その躍進ぶりを示しました。また、「U.S. Bartender of the Year presented by Pernod Ricard」にはワシントンD.C.「Service Bar(サービス バー)」のChristine Kim(クリスティン キム)さんが選ばれました。
米国で最も優れた新設カクテルバーに贈られる「Best New U.S. Cocktail Bar」に輝いたのは、2024年1月にニューヨークに開店した、後閑信吾さんが共同オーナーを務める「Sip & Guzzle(シップ&ガズル)」です。カクテルと食事を楽しめる同店は、革新的なコンセプトで高い評価を得ました。さらに後閑さんは2024年9月にスペイン。マドリードに開店した「Devil’s Cut(デビルズ・カット)」で「Best New International Cocktail Bar」を受賞。同一オーナーによる米国部門とインターナショナル部門とのダブル受賞は、Spirited Awards®史上初の快挙となりました。
受賞式が行われたフィルモア・シアターは、各受賞者の名前が読み上げられるたびに拍手と歓声に包まれ、お祭りムードの中、Tales of the Cocktail® 2025は幕を閉じました。
「Tales of the Cocktail® Spirited Awards® 2025」受賞者リストはこちら