食中酒としてのポテンシャルが、焼酎の可能性を広げる

焼酎を語ろう①

食中酒としてのポテンシャルが、焼酎のグローバルな可能性を広げる

発酵と麹が生む独自の味わいをはじめ、本格焼酎には、他の蒸留酒にはない魅力があります。世界的なマーケットにおける位置づけも、以前とは大きく様変わりしました。アメリカ生まれで、日本の本格焼酎に魅せられ、現在は日本を拠点に世界へ焼酎の情報を発信しているペレグリニ・クリストファーさんに、「本格焼酎は世界一の蒸留酒」と言い切るその理由を語っていただきます。

語り:ペレグリニ・クリストファー / 取材・文:井上健二 / 
写真:三井公一 / 構成:Contentsbrain


17歳で全米最年少のブリュワーに

10代の頃に友人とビールのホームブリューイング(自家醸造)をやってみたのがきっかけで、ビール醸造に興味を持ちました。その興味が高じて、地元のクラフトビール工房でアルバイトを始め、まもなく醸造の現場を任されるようになります

当時17歳。全米で最年少のクラフトビールのブリュワー(醸造家)だったと思います。

毎日夜10 時から朝まで副杜氏⋆1として醸造所の番をしました。しんどかったけれど、やりがいのある仕事でした。本当に楽しかった。


1 杜氏: 日本酒の醸造工程を担う職人たちを統率する製造現場の最高責任者。蔵元(酒蔵のオーナー)の請け負いのほか、酒蔵の社員が兼務したり、蔵元が兼任するケースもある。
ペレグリニ・クリストファーさん

大学卒業後はアメリカで教師として働きましたが、自分の知らない世界に飛び込んでみたいという気持ちが強くなり、思い切ってアジアへ渡ることにしました。韓国で英語教師として働いた後、日本へ移り住みことになります。2002年のことです

本格焼酎の多様性に衝撃を受ける

東京で暮らすなか、自宅近くにある日本酒の品ぞろえが自慢の小さな居酒屋に通うようになり、気さくな店主が薦める銘酒を毎日のように飲み比べながら、その奥深さに触れていました。そんなある日、店主に出されて初めて本格焼酎を口にしたのです。

見かけは透明で日本酒のようでしたが、グラスを鼻に近づけると香りがまったく違う。衝撃的に美味しくて、一目惚れでした。記念すべき1杯目は麦焼酎。その後店主が、芋、そば、黒糖と、次から次へと本格焼酎をテイスティングさせてくれました。

どれも見かけは同じなのに、驚くべきことにそれぞれにベース原料の風味がちゃんと残っている。ビールとモルトウイスキーは大麦麦芽、日本酒は米、ワインはぶどうからつくりますが、本格焼酎はどんな穀物からでも自在につくられる。その多様性で右に出るものがなく、「これぞ世界一の蒸留酒だ」と感動しました。

店主とのやり取りのなかで、どうやら九州の KAGOSHIMAというところで多くの本格焼酎がつくられていると分かってきました。そこで、鹿児島で焼酎づくりを見たい、未知なる焼酎についてもっと掘り下げて、深く知りたいという気持ちが抑えられなくなりました。ブリュワーの血が騒いだのです(笑)。

初めて焼酎蔵に足を踏み入れたときのいちばんの驚きは、何といっても麹の存在でした。

なぜカビである麹からあんなに美味しい蒸留酒ができるのか、とても不思議でした。それから焼酎の謎を解き明かしたいという思いが一層強まり、鹿児島以外の九州各県でもあちこちの焼酎蔵を訪ねて、徐々に見聞を広めて、知識を深めていきました。

英語で焼酎を紹介する
「The Shochu Handbook」を刊行

杜氏たちの姿を目の当たりにしたことが原動力になり、2006年からは、東京を中心に日本各地で本格焼酎の試飲会と、焼酎に関する講演会をスタートさせました。日本の焼酎蔵の杜氏たちが、自分たちのコミュニティーが大切にしてきた焼酎づくりの歴史と伝統を守るために、真摯に仕事と向き合っていることを、特に僕のような外国人にもっと知ってもらいたいと思ったのです。

焼酎づくりの工程の一つ、一次仕込みの様子。
焼酎づくりの工程の一つ、一次仕込みの様子

その頃外国人の中で焼酎について理解している人はほぼ皆無でした。日本酒は世界的にも高く評価されていましたし、同じ蒸留酒でもジャパニーズ・ウイスキーはブームの兆しが見えつつあった。でも、焼酎は国外ではずっと無名でした。その状況を少しでも変えたいと考えたのです。

講演会は英語と日本語で行っていて、外国人向けに始めたのですが、蓋を開けてみたら参加者の8割くらいは日本人でした。僕が思った以上に、日本人も焼酎について知らなかったのかもしれません。

こうした活動を続けているなかで、当時、英語で読めるちゃんとした焼酎の入門書籍が存在せず、ネット上の情報も限られていることに気づきました。だから、英語で読めるガイドブックが必要だと思いました。

2014年に刊行した「The Shochu Handbook」(Telemachus Press)。副題は「An Introduction to Japan's Indigenous Distilled Drink(日本古来の蒸留酒入門)」
2014年に刊行した「The Shochu Handbook」(Telemachus Press)。副題は「An Introduction to Japan's Indigenous Distilled Drink(日本古来の蒸留酒入門)」

日本語で書かれた焼酎の書籍を英訳する方法もありましたが、あえてそうしなかった理由があります。僕自身、足を使って焼酎蔵を巡り、そこで多くの杜氏たちから直にいろいろな学びを得ました。その生きた知識を活用しながら、かつての僕のような焼酎に関する知識ゼロの外国人でも、その歴史から産地の特性、製法、種類、料理とのペアリングまで、トータルで理解できるオリジナルのガイドブックを作りたかったのです。

焼酎の食中酒としてのポテンシャルに惹かれる

世界の蒸留酒と比べると、焼酎の個性はとてもはっきりしています。例えばウイスキーでいうと、バーボンもスコッチも、どちらかというと発酵そのものよりも、その後の樽熟成に重きを置いています。言い方は悪いのですが、多少いい加減に発酵しても、2回以上蒸留するので、樽で長期間、丁寧に寝かせれば豊かな風味を帯びるようになるのです。ジンも蒸留を繰り返し、その後にボタニカル⋆2で風味付けします。

でも、単式蒸留⋆3で1度しか蒸留しない本格焼酎では、ごまかしは一切利かない。主原料と水、麹と酵母以外の添加物もゼロですから、発酵こそ命。そこが蔵人の腕の見せどころであり、だからこそ麹が醸す主原料の味と香りが生きてくるのです。


2 ボタニカル: ベースとなる蒸留酒に加える風味付けの植物素材。

3 単式蒸留: 単式蒸留機を使用し、1度の蒸留でアルコールを抽出する、伝統的な焼酎の製法。原料の風味が残り、個性的な味わいになる。単式蒸留機で蒸留した焼酎のうち、特定の原料(麦・米などの穀類、芋類、清酒粕、黒糖)および麹を使用し、水以外の添加物を加えないものを「本格焼酎」と呼ぶ。

日本からアメリカへ本格焼酎を輸出する会社を立ち上げ、特にアメリカでの本格焼酎の普及に力を入れています。アメリカでの反応は、たぶん日本人の想像を超えていますよ。大都市の大きな酒屋では焼酎を数種類置くのが普通。ニューヨーク・マンハッタンのある一流ホテルのバーのドリンクメニューには、1ページ目のスパークリングワインに続いて、2ページ目には焼酎のBTG(by the glass)のリストが並んでいて、ワイングラスで焼酎が提供されます。

日本のお酒に注目している飲食店関係者は多く、彼らから毎日のように僕のところに相談メールが入ります。10年前は、飛び込み営業で「焼酎って知っていますか?」と切り出しても、多くは「ノーサンキュー」と突き返されていたのに、いまでは向こうから「焼酎の詳しい話をぜひ聞かせてください」と身を乗り出してきます。

かつて、焼酎が麹菌、つまり微生物の働きを活用して醸す蒸留酒だという点が、世界ではネガティブに受け取られるのではないかと懸念されていました。しかし、その点は何も心配いりません。
和食がグローバル化してきて麹を料理に使うレストランも増えた結果、UMAMIと並んでKOJIの認知度が上がり、麹に対する抵抗感はほとんどなくなりました。カビでつくるチーズだってあるのだから、麹を毛嫌いするのはナンセンスだとみんな気づいています。いまや「Mold(カビ) is Gold」、「Mold is Magic」と逆に賞賛される存在です。

個人的には、焼酎のライバルは、他の蒸留酒ではなく醸造酒、つまりビールやワインだと考えています。アルコール度数の高い食後酒としてではなく、食中酒としてのポテンシャルが高いと思っているからです。

例えば、前日からあらかじめ水と混ぜておく前割りや、フレッシュな果汁や炭酸と組み合わせたチューハイは、和食だけでなくイタリア料理やスペイン料理、スパイスを利かせたエスニック料理などにもよく合います。チューハイにするなら、トニックウオーターとソーダを混ぜたソニックで割ると甘すぎず、いい感じに仕上がると思います。

アメリカでもRTD⋆4市場は活況ですが、そこでも本格焼酎を用いたナチュラルフレーバーのチューハイなら受け入れられる余地が十分あると思う。鍵を握るのは価格ですね。4缶入りのパックで10〜12ドルなら、きっと売れますよ。


4 RTD: 「Ready to Drink」の略で、缶チューハイや缶カクテルなど「蓋を開けるだけですぐ飲める」アルコール飲料。

カクテルベースとしても有望です。オールド・ファッションド、マンハッタン、ネグローニといったウイスキーやジンがベースの定番カクテルで、代わりのベースとして焼酎を用いるのです。麹の豊かなニュアンスで、これまでとは違った美味しさが表現できるでしょう。

有田焼の酒器で楽しむ、焼酎のお湯割り

さらに言うなら、焼酎の大きな利点は、どんな飲み方でも自由に楽しめる点にあると思っています。ストレートもいいし、ロック、水割り、ハイボールと好きに選べる。温めて飲む蒸留酒はまずありませんが、焼酎はお湯割りも美味しいですよね。僕自身、夏も含めて1年中お湯割りで飲んでいます。沸騰させたお湯を有田焼のカップに注いで5〜6分冷まし、そこへ静かに焼酎を注ぐのです。銘柄にもよりますが、比率はだいたい5対5が多いですね。

焼酎の楽しみ方は本当に幅広い。その魅力を世界にもっと広く伝えていきたいと思っています。ウイスキー、ジン、ウオッカ、ラム、メスカル、テキーラといった蒸留酒は、世界各地の酒屋で当たり前のように売られており、バーでもレストランでもカジュアルに楽しめます。焼酎がその仲間入りを果たす時が来るまで、僕は日々普及の努力を続けます。アメリカ北東部、カナダとの国境に近い自然豊かなバーモント州。人口2000人の僕の生まれ故郷の小さな酒屋に、本格焼酎が並ぶ日が来たら最高ですね


ペレグリニ・クリストファーさん

ペレグリニ・クリストファー

アメリカ・バーモント州生まれ。イギリスの大学院を卒業後、韓国に移住し、2002年来日。自宅近くの居酒屋で焼酎と偶然出合い、以来焼酎のとりこに。九州を中心に蔵を訪ね歩いて焼酎について深く学び、「焼酎唎酒師」の資格を取得した。2014年には海外向けの英語の焼酎ガイド本「The Shochu Handbook」(Telemachus Press)を刊行。2020年に本格焼酎、泡盛を中心とする日本のスピリッツをアメリカに輸出する会社「HONKAKU SPIRITS」を立ち上げる。焼酎と泡盛の伝道師として幅広い層に向け、多言語でセミナーや試飲会を開催、クールジャパン焼酎&泡盛アンバサダーとしても活動している。
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