本格焼酎のつくり方:「一麹」後編~本格焼酎の救世主となった黒麹菌・白麹菌

Dr.下田の新本格焼酎論 第3回

(写真提供:独立行政法人酒類総合研究所)

三和酒類で技術者、経営者として本格焼酎づくりに携わってきた「焼酎博士」こと下田雅彦(しもだ・まさひこ)が、本格焼酎の魅力を多角的に語り下ろす本連載。前回に引き続き第3回は本格焼酎の製造工程について語ります。日本の酒づくりの基本である「一麹(いちこうじ)、二酛(にもと)、三つくり」に沿って、まずは出発点となる「一麹」の、処理を施した米や麦といった原料に麹菌を生やす「製麹(せいきく)」という工程についてです。


※冒頭の写真は黒麹菌を生やした米麹(写真提供:独立行政法人酒類総合研究所)

⇒第1回「本格焼酎は『奇跡のスピリッツ』。その3つの理由」

⇒第2回「『一麹』前編~美味しい本格焼酎を左右する最初のステップ」

語り:三和酒類  顧問 下田 雅彦 / 構成:井上健二、Contentsbrain


●「一麹(いちこうじ)、二酛(にもと)、三つくり」について
「一麹、二酛、三つくり」とは、古くから使われている日本酒づくりの工程上の重要度を示した格言で、良いもろみ⋆1 を仕込む(つくる)ためには良い酛(酒母ともいう)がなくてはならず、良い酛をつくるためには良い麹(日本酒なら原料となる蒸し米に麹菌を生やしたもの)が必要であるという意味です。すなわち、最初のステップである麹づくりが一番重要だということを示しています。蒸留酒である本格焼酎は、醸造酒である日本酒と製法が異なりますが、本格焼酎の製造工程の前半部分には、日本酒づくりのこの教えが当てはまります。


1 もろみ: 醸造用のタンクに、蒸し米(蒸し麦)に麹菌を繁殖させた麹、水、酵母などを入れて仕込み、でんぷんの糖化とアルコール発酵が進んだ状態のもの。これを漉(こ)して日本酒の原酒、あるいは蒸留して本格焼酎の原酒ができる。
本格焼酎の製造工程図(作:下田雅彦)
(作:下田雅彦)

前回は本格焼酎の原料である米や麦を適切に精白し、<洗浄→浸漬(しんせき)→蒸し→放冷>という原料処理の工程を経て、麹菌が繁殖しやすい環境を整える一連の工程を紹介しました。

ステップ1 麹原料と精白
ステップ2 原料処理

今回は、蒸した原料に麹菌を生やして麹をつくる「製麹(せいきく)」の工程についてご紹介します。麹づくりには、古くから培われてきた日本酒づくりの技術が使われています。さらに、黒麹菌の発見によって起こった本格焼酎づくりの革新についても解説します。

ステップ3 製麹(せいきく)

バラ麹づくりに見る伝統の技

精白した原料の米や麦に麹菌が生えた状態のものを「麹」と呼び、麹づくりを「製麹」と呼びます。ここでは、「蓋(ふた)こうじ法」と呼ばれる伝統的な製麹の方法を紹介します。日本に古くからある黄麹菌という種類の麹菌を使った、手作業の米麹づくりです。

日本酒と本格焼酎で使用する米麹は、蒸した米粒一つ一つに麹菌を生やしたもの。これを「バラ麹」といいます。バラ麹づくりのため、長年の経験を経て先人が確立したのが、蓋こうじ法です。

まず蒸し米を、麹づくりを行う作業部屋である麹室(こうじむろ)に入れます。麹室は温度・湿度が管理された、換気のできる清潔な部屋。ここで蒸し米を床(とこ)⋆2の上に30cmくらいの高さに積み上げて、布で包み込んで保温し、しばらく置くことで温度を均一にします。その後、山を崩して、手でかき回しながら薄く広げていきます。

ここからが、蔵人の中でも醸造の総責任者である杜氏(とうじ)さんの腕の見せどころ。床に広げられた蒸し米の上から、麹の種となる「種麹(たねこうじ)」⋆3を満遍なく丁寧に振りかけていきます。これは、麹菌を新たに増やす“種まき”のようなものです。


2 床(とこ): 製麹用の作業台。

3 種麹(たねこうじ): 麹菌をできるだけ純粋に培養し大量に胞子を着生させたものを、専門業者が商品化した市販品。販売する専門業者の多くは数百年の歴史を持つ伝統産業で、現在日本で数社しか存在していない。

米粒一つ一つに胞子がつくように、これをさらに手でよく混ぜ合わせます。これを「床もみ」と呼びます。床もみを終えたら、再び高さ30cmくらいまで積み上げ保温します。しばらくすると米粒についた麹菌が増殖を始めます。

発芽した麹菌は、増殖が旺盛になると温度の上昇がみられます。温度ムラを防ぐため、途中、堆積させた蒸し米を崩して混ぜ合わせ、再度積み上げる「切り返し」を行います。蒸し米の水分を飛ばすことで温度上昇を抑えるとともに、全体を均一に整えて、麹にならない状態「ハゼ落ち」⋆4を防ぎます。


4 ハゼ落ち: ハゼ(破精)とは蒸し米に麹菌の菌糸が繁殖して、白く見える状態のこと。麹菌の菌糸の増殖が不十分で蒸し米のまま固くなったものをハゼ落ちと呼ぶ。

2日目になると麹菌の生育が活発化し、温度は一層上がります。そこで麹を小分けして「麹蓋」⋆5と呼ばれる平たい杉箱に移し替え、箱の位置を入れ替えたり、麹をかき混ぜたり、箱内で温度管理をします。適温をキープすることで、麹菌の生育が促されると同時に、麹菌内部でその後の醸造に欠かせない酵素が盛んにつくられるようになるのです。


5 麹蓋: 主に杉などで作られた木製の小箱。1.5~2.5kg程度の米が入る。通称「蓋(ふた)」。

種麹を散布してから40時間ほど経つと、麹菌の生育は最高潮に達し、42〜43℃でしばらく保ってようやく麹室から出されます(出麹、でこうじ)。これで製麹は終了。麹担当の蔵人さんは大事な製麹の間、麹を見守りながら作業と仮眠を繰り返して麹を育てていきます。以上が黄麹菌を使った米麹づくりの工程です。

一方、本格焼酎や泡盛(あわもり)のバラ麹づくりに一般的に使われるのは黒麹菌や白麹菌です。基本的な作業の流れは黄麹菌を使った米麹づくりと同じですが、黒麹菌や白麹菌では、クエン酸の生成を促すために製麹後半の出麹までの間、麹の温度を35℃まで下げます(黒麹菌・白麹菌によるクエン酸の生成については後述)。さらに本格焼酎では、麹原料に米だけでなく麦や芋を使う場合があり、原料によって手の入れ方や温度経過が微妙に異なります。

日本酒や本格焼酎で行われるこうした伝統的なバラ麹づくりの技術は、世界の酒づくりの中でも非常に独創的で繊細です。

温度・湿度を管理しながら麦麹を攪拌する製麴の工程を自動化した製麹機
温度・湿度を管理しながら麦麹を攪拌する製麴の工程を自動化した製麹機

ここで、主に日本酒づくりに使われる黄麹菌、本格焼酎や泡盛に使われる黒麹菌、白麹菌について、とても重要なポイントなので詳しくご説明しましょう。

本格焼酎の救世主、
黒麹菌・白麹菌

現在、本格焼酎に使われている麹菌は黄麹菌、黒麹菌、白麹菌の3種類。「令和6年度(2024年度)酒造講話会資料」(熊本国税局)によると、本格焼酎の主産地である南九州全体では白麹菌が87%、黒麹菌が7%、黄麹菌が2%、その他混合使用が4%の割合で使用されています。

本格焼酎づくりにおける麹菌の利用は、歴史的に数々の紆余曲折を経て現在に至ります。その歴史を振り返ってみましょう。

黄麹菌(Aspergillus oryzae、アスペルギルス オリゼー)を使った麹づくりは13世紀の頃、京都、奈良を中心に定着し、その後全国、南九州にも伝わります。日本酒や味噌、醤油などをつくるために広まっていきました。一方、本格焼酎の始まりは16世紀の頃、南九州で日本酒のもろみを蒸留したものだったようです。

黄麹菌の役割は3つあります。第1に、でんぷんの糖化やタンパク質の分解といった、発酵の際に重要な役割を担う各種の酵素を多量につくり出すこと。第2に、酵母の増殖と発酵の促進に必要な、アミノ酸やビタミンなどの栄養素を供給すること。第3に、お酒に特有の香味成分を付与することです。

黄麹菌を生やした米麹(写真提供:独立行政法人酒類総合研究所)
黄麹菌を生やした米麹(写真提供:独立行政法人酒類総合研究所)

しかし、黄麹菌にはもろみを雑菌から守る酸を生成する性質がないため、温暖な南九州では腐造が頻発しました。特にサツマイモを主原料とする芋焼酎づくりで腐造が多く、良質な芋焼酎の製造は至難のことでした。

一方、黒麹菌の特性は、クエン酸をつくること。多量のクエン酸がもろみを酸性(pH⋆6 3.2~4.2)にすることにより、雑菌汚染を防止してくれるのです。黄麹菌と同様に麹菌に必要な第1、第2、第3の役割を持ちながら、黒麹菌は、第4の役割である「もろみを酸性にすること」により腐造問題を一気に解消する、スーパー麹菌でした。しかし黒麹菌は長い間、琉球(現在の沖縄)から外に出ることなく、泡盛製造のため独自に継承されていました。


6 pH: 酸性・アルカリ性の程度を表す指標。7が中性、7より小さいと酸性、7より大きいとアルカリ性を示す。

1879(明治12)年に琉球が沖縄県となった後、1901(明治34)年に黒麹菌(Aspergillus luchuensis、アスペルギルス リューチューエンシス)が発見され、全国的にその有用性が知られるようになります。以後、黄麹菌に代わり黒麹菌が本格焼酎づくりに導入されます。

ただ当初、黄麹菌に慣れていた南九州の本格焼酎の製造者は黒麹菌の取り扱いに苦労していました。黒麹菌の胞子は文字通りすすみたいに真っ黒で、製麹作業で服が黒く汚れてしまい、しまいには鼻の穴まで黒くなったりしたのです。

その問題も黒麹菌導入から十数年後に解決されます。1924(大正13)年、独自に黒麹菌を分離し研究を進めていた河内源一郎(かわち・げんいちろう)先生が、黒麹菌から突然変異した白麹菌を見出しました。学名は河内先生の名前にちなみ、Aspergillus luchuensis mut. Kawachii(アスペルギルス リューチューエンシス ミュット カワチ)です。

白麹菌の胞子は、黒麹菌の胞子よりも汚れが目立たず作業がしやすいうえに、黒麹菌と同じく腐敗を防ぐクエン酸もつくることから、急速に多くの蔵で採用されるようになりました。

黒麹菌を生やした米麹。すすのような黒い胞子がつくり手たちを悩ませた(写真提供:独立行政法人酒類総合研究所)
黒麹菌を生やした米麹。すすのような黒い胞子がつくり手たちを悩ませた(写真提供:独立行政法人酒類総合研究所)
白麹菌を生やした米麹(写真提供:独立行政法人酒類総合研究所)
白麹菌を生やした米麹(写真提供:独立行政法人酒類総合研究所)

酒質の上でも黒麹菌と白麹菌のそれぞれの特徴に違いがみられます。黒麹菌からつくられる本格焼酎は辛口ながら野生的な風味とコクがあるのに対し、白麹菌でつくる本格焼酎は香りが穏やかで味も甘みがあり柔らかいという特徴があります。以来、長い間、白麹菌使用100%の時代が続きましたが、1990(平成2)年頃から、商品の多様化により黒麹菌の辛口で野生的な風味を生かした本格焼酎づくりを行う蔵元も増えてきました。

黒麹菌と白麹菌の登場は、本格焼酎の救世主登場だったといっても過言ではありません。こうして、「麹菌を使った日本の伝統的な酒造りの技」は2024年12月にユネスコの世界遺産にも登録され、大切に保護育成され続けています。

さて、麹づくりに続き、本格焼酎づくりの次の工程は、仕込み用のタンクの中で麹と水、酵母を混ぜて糖化と発酵を行う「一次仕込み」(日本酒づくりにおける「二酛」、すなわち原料と水、酵母菌を加えてつくる「酛」づくり)です。この工程については次回に詳しく説明します。

⇒第2回「『一麹』前編~美味しい本格焼酎を左右する最初のステップ

⇒第1回「本格焼酎は『奇跡のスピリッツ』。その3つの理由」


主要参考文献:「日本酒」(秋山裕一、岩波書店、1994年)、「和食とうま味のミステリー」(北本勝ひこ、河出書房新社、2016年)、「現代焼酎考」(稲垣真美、岩波書店、1985年)、「焼酎の履歴書」(鮫島吉廣、イカロス出版、2020年)

下田雅彦(しもだ・まさひこ)

下田雅彦(しもだ・まさひこ)

三和酒類株式会社顧問 工学博士
1955(昭和30)年生まれ、大分県豊後大野市出身。大阪大学工学部醗酵工学科卒業後、兵庫県の日本酒メーカーに勤務。1984(昭和59)年にUターンで三和酒類に入社。専門技術者として焼酎製造技術開発、商品開発、品質管理に従事しながら、1998(平成10)年に大阪大学工学博士号取得。1999(平成11)年に取締役に就任後、2017(平成29)年、オーナー家以外から初の社長に就任。2023(令和5)年、取締役会長、2025(令和7)年10月より顧問を務める。

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