物事って理由がある方が格好いいし、納得できると思う
バーテンダーとして世界で数々の表彰を受け、「SG Group」の統帥として、中国・上海をはじめ沖縄、東京にバーをオープンさせ、それぞれ「ASIA'S 50 BEST BARS」や「THE WORLD’S 50 BEST BARS」にランクインを果たすなど世界のバーシーンで熱く注目される後閑信吾さん。今回は米国最大のカクテルイベント「Tales of the Cocktail®」のゲストバーテンダーとしてカクテルをふるまう合間の時間をいただき、「WA-SPIRITS」の1つである「iichiko彩天(さいてん)」のカクテルとしての使い勝手、米国での「麹」の普及、バーテンダーとしての心がけなどを伺いました。
文:鈴木昭 / 写真:三井公一 / 構成:Contentsbrain
取材場所:「Loa」(International House Hotel / 221 Camp Street, New Orleans 70130)
カクテルシーンでの「WA-SPIRITS」の可能性
――麹を使った「iichiko彩天」でカクテルを作っていただきました。その魅力はどんなところにあると思いますか。
日本で通常飲まれている本格焼酎のアルコール度数は20~25度ですが、「iichiko彩天」は43度と高いのがいいですね。こういうものを使えば、日本人のバーテンダーとしてのカクテルの表現力が広がるな、という印象です。僕自身、以前アメリカのバーで仕事をしていたときに、ジンやウオッカのようなアルコール度数40度台の日本のスピリッツがあればいいのになあと思っていました。その思いもあり、日本に帰ってからアルコール度数40度前後の本格焼酎の新ブランド「The SG Shochu」の開発を進めたくらいですから。
「iichiko彩天」は、海外のバーで働く日本人バーテンダーや、僕らのように多くの海外のお客様を相手にする日本のバーのバーテンダーにとって、すごく使いやすいと感じます。
――本格焼酎というのは、米国のバーでは、まだどこでも置いてあるという状況ではありませんが、将来的にはどんな存在になっていくと思われますか。
こうなればいいなぁというところはあります。おそらく、バーテンダーはもちろん、シェフとかソムリエも同じように感じていると思いますが、本格焼酎って、麹を使っていることや、蒸留回数が1回きりということもあり、フレーバーが強いんですよね。他のスピリッツにはない深みだったり、フレーバーのレイヤーみたいなのが明らかにある。そういった良さに米国のバーテンダー、さらにコンシューマーが気づいてくると、米国市場で広がるのかなぁと思います。
――「麹」に対しては、5~6年前と今とではアメリカでの浸透度や理解度、反応に変化がありそうですね。
そうですね。10年くらい前にヨーロッパの飲食関係の人たちが、「麹」というのは面白いよと言い始めて。それからアメリカにも醤油(しょうゆ)や味噌(みそ)が普及していくに従って、「ライスモルト」と言うのではなく「Koji」と言うようになってきたように思います。
日本酒とか本格焼酎もそうですよね。日本酒が「ライスワイン」、本格焼酎が「ライススピリッツ」とかと言われていたのが、「Sake」とか「Shochu」とかと呼ばれるようになったのと同じように、「Koji」と言って分かる人が増えてきた。逆に「Koji」って知らないと格好悪いよといった感じにすらなってきている。僕が米国で飲料関係のセミナーの講師をやるときには、あえて「Koji」とそのままの言葉で言ってみても、理解してもらえることも増えてきたし、徐々に浸透してきた実感がありますね。
たぶんこれは北欧のレストランシーンの流れが影響していると思います。北欧のレストランのトップシェフたちが麹に大注目したじゃないですか。彼らは日本の醤油や味噌を使うだけでなく、麹を使って発酵調味料や発酵食品を作ったりして。もちろん日本食の影響も当然あるけれど、それだけじゃなくて、ヨーロッパのトップシェフたちが麹とか発酵を意識するようになったことで、米国にも「Miso」「Shoyu」「Koji」といった言葉がそのまま普及していったと思います。
カクテルと料理のペアリング
――「iichiko彩天」を使ったカクテルと料理の組み合わせ、ペアリングについては、どのようにお考えですか。
カクテルで注目され始めている、セイボリー(savory)⋆¹という、うま味を重視したジャンルは、本格焼酎との親和性が高いと思います。それは麹を使ってつくられたお酒であることとか、元々、食中酒としても飲まれてきたお酒だからというのがあるんじゃないでしょうか。
⋆¹ セイボリー(savory):元々はアフタヌーンティーなどに出されるサンドイッチやパイ、キッシュのような塩気のある食べ物を指す。カクテルの世界では、塩気のあるスパイシーなカクテルだったり、あるいは、風味豊かでうま味が高く、食事とも合うカクテル、料理の要素を取り入れたカクテルを指したりと、確立した定義はない。
料理とカクテルとのペアリングを考えるということは、カクテルを作ることとはまた別のジャンルの作業だと僕は思っています。料理を知って、それに合わせるドリンクを考えるのって、ワインのソムリエの要素がかなり強い。ソムリエってワインだけではなく料理についても詳しいですよね。そうじゃないとワインと合わせることができないし。
それと同じで、ソムリエのような知識や経験がないとカクテルペアリングってできないんですよ。日本のクラシックカクテルというのはすごく技術重視型ですし、一方で、新しいクリエイティブなカクテルって発想重視型ですけれど、カクテルのペアリングというのはもっとこう、味覚とか知識重視なんですよね。そういう人たちも増えてきているんですけれど、彼らからすると本格焼酎というのはめちゃくちゃ使いやすいスピリッツだと思います。
今後、米国でカクテルペアリングが広まっていけば、次の段階として、料理業界を巻き込めるようになりますよね。今のバー業界も大きいですけれど、料理業界を巻き込むことで、バーの市場がさらに拡大していくかもしれない。そのときに、料理と高い親和性を持つ本格焼酎のポテンシャルが発揮されれば、一気に広がる気がします。
もちろん、ペアリングというのは難しいですからね。闇雲にやると悪い印象を与えかねないし、だったらワインの方がいいや、日本酒の方がいいやっていうことにもなりかねない。慎重に取り組んでちゃんと広まればいいなと思います。
場所を見て瞬時に服装を判断
――以前、シンガポールのバーで後閑さんのゲストシフトの様子を拝見する機会がありました。そこでは後閑さんはオーセンティックな服装で、今日とはまた違ったイメージの格好良さがありましたね。
それはですね、例えば今日、ニューオーリンズに到着して、最初に会場の店内に入ったときに、「あぁ、内装はこんな感じなのか。DJも居て音楽はこんな感じで……」って様子を拝見しました。それで、エレベーターに乗る前に、「これは今日はこっちの服じゃないな」って判断して控室で着替えました。
――その場所を見て服装を瞬時に判断されるのですね。
そうです。もう本当に3分くらい。でも、カクテルとかバーテンダーにとっては全部そうだと思うんですけど、お客様にこんなカクテルが欲しいと言われて、瞬時に反応するのと同じかもしれません。なんというか、ボクシングみたいな感じでしょうかね。
今日カウンターで僕の相方を務めるのは「Sip & Guzzle⋆²」のバーテンダーで、彼はビシッとネクタイを締めて、シャツを着て、綺麗な格好をしています。それはそれでいいのですけど、「僕はこの場なら、こういうスタイルがいいな」と思って着替えたんです。カウンターに並ぶ2人が同じような服装じゃない方がいいなとも考えました。
⋆² Sip & Guzzle: 2024年1月、ニューヨークにオープンしたSG Groupのバー。
その行動に理由があればいい
――後閑さんのあるインタビュー記事の中で、「スタッフの方々の衣装は清潔感があればいいが、ボールペンを胸ポケットに挿すようなことだけはしないでくれ」と注意する、というコメントを拝読しました。
ボールペンというのは例で、その空間に合ったものなのかということを考えてほしいと思っています。例えば「The SG Club」(東京都渋谷区)の空間のコンセプトは1860年をイメージしています。また、「The SG Tavern」(東京都千代田区)は1870年をイメージしています。ということは、その時代にプラスチックのボールペンが胸ポケットに挿さっているのって違和感があるじゃないですか。
今の私の格好だと割とクラシックなので、これにボールペンとか合わないですよね。さらにメモ帳が入っていたら、作業感が出てしまい、くつろぎたいお客様からすると嫌かもしれない。ボールペンがアンティークなもので、世界観を壊さず時代感が合えばいいと思いますし、違和感につながらなければ禁止はしていません。
まあ、プラスチックのボールペンをバーテンダーの服装に合わせるというのは難しいかもしれませんね。そもそもボールペンを持つのって2つ理由があると思うんですよ。1つはお客様に使ってもらうペンですね。そしてもう1つは自分が使うペンですよね。お客様には、プラスチックじゃない方がたぶんいいですよね。自分が使うためだったら、胸ポケットに挿してお客様に見せなくてもいいじゃないですか。
全てにおいてそうなんですけれど、カクテル作りも、ビジネスも、なんかそういうちょっとしたことであっても理由があればいいと思うんですよ。理由がないものは、僕は受け入れられない。いつもスタッフには軽々しく「お待たせしましたって言うな」って言っているんですよ。本当に待たせた時にだけ言えって。待たせてもいないのに癖で、「お待たせしました」って言う人がいるじゃないですか。それは意味がないからダメだよねって。
ボールペンとかも全く同じで、意味があるんだったら挿してもいいし、理由を聞かれて答えられるんだったらいいんだけど。なんかお待たせしてないのに「お待たせしました」って言うのと似ているなって僕は思うんです、いつも。
――考えが止まっちゃっていますもんね、その時点で。
そうなんですよ。まさにそれです。
――後閑さん、上司にしたらありがたい半面、怖そうです(笑)。
いやいや。昔はそういうことを細かく言っていたんですけど、今はもうあんまり言わないですけどね。でも、理由がある方が格好いいじゃないですか。納得できるじゃないですか。

後閑 信吾(ごかん しんご)
「SG Group」ファウンダー
1983年、神奈川県生まれ。2006年に渡米、「Angel's Share」(ニューヨーク市)の4代目ヘッドバーテンダーを務める。2012年、「Bacardi Legacy Cocktail Competition 2012」世界大会で優勝。2014年、Speakeasyスタイルのバー「Speak Low」と、バーツールショップ「OCHO」を上海市内に同時オープン。2017年、上海市内に「Sober Company」をオープン。同年、「Tales of the Cocktail®: The Spirited Awards®」で「International Bartender of the Year」受賞。2018年、東京・渋谷に「The SG Club」オープン。2020年2月14日、「SG Group」と焼酎メーカー3社で共同企画した焼酎「The SG Shochu」(米・芋・麦)を発売。2021年、渋谷に「ゑすじ郎 / SG Low」、2022年、沖縄・那覇に「El Lequio(エルレキオ)」、2024年、東京・丸の内に「The SG Tavern」をそれぞれオープンした。