【後編】日本とは違い、ニューヨークではバーが日常生活の中に浸透しています
アメリカで活躍する日本人バーテンダーの主要な存在としてトップを走り続ける「Bar Goto」「Bar Goto Niban」のオーナーバーテンダーの後藤健太さん。後編では、世界のカクテルトレンドを牽引するニューヨークで活躍する後藤さんの視点から、本格焼酎、そして「WA-SPIRITS」の可能性についてお話しいただきます。
⇒前編「世界で最も厳しい(本物がしのぎを削る)ニューヨークのバーテンダーとして」
文:菅礼子 / 写真:三井公一 / 構成:Contentsbrain
世界のカクテルトレンドを牽引するニューヨーク
「Bar Goto」「Bar Goto Niban」オーナーバーテンダーの後藤健太さん
――「Bar Goto」「Bar Goto Niban」で人気の高いカクテルを教えてください。
基本的に私たちは、クラシックカクテルを通じて日本の風味を紹介しています。レシピを作る際には、絶妙なバランスを見つけるように細心の注意を払っています。
お店で提供するカクテルのメニューは3つのセクションに分けています。1つ目が炭酸で割ったロングドリンク系。2つ目がステアするアルコール度数高めのどっしり系。3つ目がシェイクするどちらかと言うと軽め、爽やか系。多く出るのはシェイクのカクテルなんですが、いわゆるお酒好きの方はステアのカクテルがお好きですね。
最近では健康志向でローアルコールのドリンクを頼む人も増えているので、ロングドリンク系もよく出ます。ノンアルコールのカクテルもオープン当初はメニューにありませんでしたが、お酒は飲まないけれどバーの雰囲気を楽しみたいという方もいらっしゃるので、現在はお出ししています。
――ニューヨーカーにとってバーというのはどんな位置付けなのでしょうか。
世界各都市にはレベルの高いバーがありますが、ニューヨークには素晴らしいカクテルバーがたくさんあります。
ニューヨークに暮らす人にとってバーは、仕事の帰りに立ち寄るオアシスで、仲間と語らう場所でもあります。バーテンダーと話してリラックスする人もいますし、お酒の情報を得ようと来る人もいます。日本では居酒屋の方が日常的に入りやすいと思いますが、ニューヨークでは「待ち合わせはバーで」と言うことも多く、バーが日常生活の中に浸透しています。社交のために1人でバーに来る人も多いぐらいです。
カウンター向かって右側でステアを握るのは「Bar Goto Niban」のヘッドバーテンダーの臼井小春さん。後藤さんが信頼を寄せる同店のリーダー
認知度拡大の鍵は正しく強みをアピールすること
――アメリカでは本格焼酎の認知度はどの程度ですか。
昔に比べたら本格焼酎の認知度は高くなっていると実感していますが、日本酒と比べたらまだこれからです。「Japanese Spirits」と言っても日本国内で飲まれる一般的な本格焼酎はアルコール度数が25度だったりしますよね。世界でスピリッツと言うとアルコール度数は最低でも40度と認識されているため、アメリカにおいても、本格焼酎の立ち位置を確立するのは挑戦です。
「iichiko彩天」を使った定番カクテル「KOJI-SAN」
――本格焼酎の魅力は何だと思いますか。例えば麹を使っていることについてはどうでしょう。
麹を使っているからという理由だけで本格焼酎を飲む人は少ないと思います。やはり「日本のお酒だから」「美味しいから」という理由で飲む人が多い。日本に対する憧れや親しみといったものから本格焼酎に興味を持ち、そこから麦や米、芋など原材料についての違いを知って、自分に合った銘柄を探していくお客様が多いです。
麹を使っていることによる独特のフレーバーが生きるので、本格焼酎を飲み始めたお客様たちは最終的にその味が好きになっていくようです。最近は本格焼酎をカクテルに使う機会も増えてきました。初心者の方でもトライしやすく、本格焼酎に興味を持つ人が増えてきていると思います。
また、我々のようなカクテルのつくり手であるバーテンダーの側が気をつけなければいけないことがあります。クラシカルというかスタンダードなカクテルのレシピというのは、40度以上のスピリッツをメインの素材に使っているものが多い。
例えばジンをベースにしたギムレットをつくる場合、40度とか40度以上のジンを使い、それにライムジュースとその酸味とのバランスを取るシロップを加えます。もしそのレシピの分量通りに単純に、ジンを本格焼酎に入れ替えて「焼酎ギムレット」をつくったらどうなるか。お酒が入っているのか入っていないのか分からない、なんだか物足りないレモネードみたいな味のギムレットになってしまうわけです。

本格焼酎や泡盛をロックやストレートで楽しむお客様も増えてきた
だから、あえて25度の本格焼酎をメインに使うのであれば、ライムジュースの酸味とシロップの甘さとの三角形のバランス、黄金比を考え直さないといけないですよね。あるいは、アルコール度数の低い本格焼酎をベースに使いながら、40度前後のスピリッツを隠し味のように入れてみるといったやり方、方法もあります。また、ジンをベースに使いライムジュースとシロップを使うとなった時に、今度はどこのタイミングで本格焼酎を加えるかも考えどころです。
先にジンとライムジュースとシロップだけをシェイクしておいて、その後に本格焼酎を足すという順序もありだと思います。これによって、25度程度のアルコール度数の本格焼酎が、シェイクによってさらにアルコール度数を下げていくということが避けられる。こういった小技の利かせ方で、アルコール度数の低い焼酎の存在感も高められます。
高アルコール焼酎の出現は市場開拓につながるのか
――「iichiko彩天」のような40度前後の高アルコール度数の焼酎が登場しました。こうした商品についてはどう思われますか。
通常のカクテルのつくり方であれば、焼酎は25度というアルコール度数の低さがハンデになることも多いとは思います。そのためにバーテンダーは、先ほど話したようなカクテルの黄金比などを考える必要があります。
40度以上のスピリッツに慣れている人に本格焼酎を知ってもらうためには、アルコール度数の高い「iichiko彩天」のような本格焼酎が増えるという流れはいいことだと思います。しかし、それだけになってしまうとどうでしょう。日本の25度の本格焼酎も美味しいじゃないですか。25度だからこそ、食中酒として楽しみやすいですし、それが日本の文化の1つでもあります。
ですので、アルコール度数40度の「iichiko彩天」のような本格焼酎と、例えば「いいちこシルエット」のようなアルコール度数25度といった本格焼酎の魅力を、アメリカでは同時に紹介していけたらいいなと思います。
⇒前編「世界で最も厳しい(本物がしのぎを削る)ニューヨークのバーテンダーとして」

Kenta Goto
「Bar Goto」「Bar Goto Niban」オーナーバーテンダー
千葉県千葉市出身。ニューヨーク州立ファッション工科大学(FIT)を卒業後バーテンダーの道へ進む。2008年1月からニューヨークの人気バー「Pegu Club」(2020年閉店)に勤務し、2011年7月には世界最大規模のカクテルの祭典「Tales of The Cocktail 2011 Spirited Awards®」にて「American Bartender of the Year(バーテンダー最優秀賞)」を受賞。同賞の受賞は、現時点では日本人では唯一となる。2015年7月、ニューヨークのローワー・イースト・サイド地区に「Bar Goto」をオープン。2020年1月、ブルックリンに「Bar Goto Niban」をオープンする。実家でお好み焼き店を営んでいたこともあり、「Bar Goto」で出すお好み焼きが人気を呼び、いまでも定番メニューのひとつ。