Jacques Bezuidenhout

バーテンダー、ブランドアンバサダー、カクテルコンサルタント

Jacques Bezuidenhout(ジャック ベズイデンハウト)さん。ザ・リッツ・カールトン東京 「THE BAR」にて

自分の感覚の全てを使って1杯のカクテルを作ることに「やりがい」を感じます

英国・ロンドンでバーテンディングの腕を磨き、その後、米国に移住したJacques Bezuidenhout(ジャック ベズイデンハウト)さん。サンフランシスコで率いた複数のバーは、Tales of the Cocktail® Spirited Awards®の表彰を受ける一方、ジンやテキーラのブランドアンバサダーも務めて、その手腕も注目されています。三和酒類が2019年に世界に先駆けて米国で発売開始したアルコール分43度の本格麦焼酎「iichiko彩天(さいてん)」には試作版の段階から関わった、言わば生みの親のひとりです。バーテンダーという仕事の魅力、そして、「iichiko彩天」開発のエピソードなどを伺いました。

文:鈴木昭 / 写真:三井公一 / 構成:Contentsbrain
取材場所:ザ・リッツ・カールトン東京 「THE BAR」(東京都港区赤坂9-7-1 東京ミッドタウン45階)

 

 


南アフリカから英国に渡り、さまざまな飲食店を経験

――Jacquesさんは南アフリカのご出身ですね。その後、英国、米国に渡られていますが、最初にバーのお仕事をされたのはどの国でしたか。

南アフリカのヨハネスブルグで高校生の頃、イタリアンレストランでウエーターのアルバイトをしました。そこでは簡単な飲み物のサーブもしました。それがホスピタリティー業界での最初の仕事でした。

1995年にロンドンに引っ越して、レストランで働きました。飲食店の裏側ではどんな仕事をしているのか体験したくて、半年ほどキッチンで働いたんです。そこでの仕事は面白くて勉強にもなりました。その後、いろいろなパブやバーなどを経て、高級カクテルバー&レストランで働くことになりました。

Jacques Bezuidenhout(ジャック ベズイデンハウト)さん。ザ・リッツ・カールトン東京 「THE BAR」にて

――そのお店もロンドンですか。

はい。ロンドン市内の「The Avenue」というお店です。そこで初めてバーテンダーの仕事をさせてもらいました。それまでは、パブでビールを注ぐくらいだったので、本格的なカクテルに触れたのは初めてのことでしたし、カクテルを作るには高い技術が必要なことを知りました。そこではすごく勉強しましたよ。

内装がとても綺麗なお店で、バーの後ろにはたくさんのお酒のボトルが並んでいて、その1本1本に地域性や歴史、ストーリーがある。例えばこのジンなら、ロンドンのこの地域で、いつ頃から、どんな人によりつくられているものだとか。それがとても面白いと思いました。

「The Avenue」の2人の先輩には大変お世話になりました。質問すると必ず丁寧に説明してくれて、技術面でも何か気になることがあれば、すぐトレーニングしてくれたのです。とても多くのことを学ぶことができて、本当にありがたかったです。

――バーテンダーの仕事をやっていこうと決めたのは、この「The Avenue」の経験からでしたか。

イタリアンレストランで働いていた時はパーティーをしたり、音楽を聴きながら仕事できるというのがすごく楽しかったんです。けれどキャリアとして続けたいと思ったのは、「The Avenue」での経験からです。

Jacques Bezuidenhout(ジャック ベズイデンハウト)さん。ザ・リッツ・カールトン東京 「THE BAR」にて

――バーテンダーというお仕事のやりがいをどんなところに感じますか。

バーテンダーとして働いている時には、もういろんなことを同時にやらないといけないですよね。その中で、自分の知識も使い、カクテル作りの技術も使い、お客様と会話をしながら、次に自分のやるべきことを考えて。物に触れたり、味見したり、BGMをチェックしたり、照明を気にしたり。バーの中というのは五感がすべて刺激されるような環境で、そこにエネルギーがあふれる感覚がすごく最高です。

自分の感覚の全てを使って1杯のカクテルを作る。自分が楽しいと思うことをやる中で、お客様にも楽しさや幸せを届けたいという思いが湧く。そうした場で働いていることに幸せ、やりがいを感じます。

「iichiko彩天」の開発プロジェクトに加わる

――Jacquesさんは1998年にロンドンから米国・サンフランシスコに渡り、バーマネージャーとして評判になり、2015年には「Forgery Bar」、翌年「Wildhawk」を開店していずれも高い評価を得ました。その後、お店の運営から手を引き、後進育成などに力を入れていらっしゃいますね。

立ち上げた2店の運営から離れた直後、コロナで仕事がなくなった時期に、「Liquid Productions」というバーのコンサルティング会社と縁ができて、今もそこで働いています。バーの開店を手伝ったり、コンサルティングをしたり、カクテルのイベントを開催したり。フリーランスのバーテンダーとして働くこともありますよ。

Jacques Bezuidenhout(ジャック ベズイデンハウト)さん。ザ・リッツ・カールトン東京 「THE BAR」にて

――Jacquesさんは「iichiko彩天」の商品開発のプロジェクトに初期から関わられたそうですね。

初めてこの話を聞いたのは、「Forgery Bar」をオープンして1年くらいの時期でした。自分はこのバーのマネージャーでした。三和酒類の米国法人iichiko USAに赴任していた宮﨑哲郎さんがお店を訪ねてきたのですが、運悪くすれ違いでした。店に戻った時に、バーテンダーから宮﨑さんが置いていった名刺を渡されました。

私から名刺の連絡先に連絡して、宮﨑さんと意気投合して、焼酎普及のために一緒に何かやりましょうということになりました。その当時、米国で焼酎というのはあまり知られておらず、カクテルにもほとんど使われていないスピリッツでした。その理由は一般的な本格焼酎のアルコール度数が25度程度と低すぎるから。そこで私は、まずは三和酒類の本格麦焼酎のテイスティングから始めることにしました。

「いいちこ」の商品を送ってもらい、全ての味見をしました。その前に宮﨑さんから、焼酎とはどういうスピリッツなのか説明してもらい、興味を掻き立てられてはいましたが、もし焼酎についての事前知識がなかったとしても、ひとくち飲んだだけでそのクオリティーがとても高いことがすぐに分かりました。味とニュアンスもすべて特別で美味しくて、これはとても面白いスピリッツだと思ったことを覚えています。

では、次に何をしなければいけないか。それはアルコール度数を上げて、カクテルで使用しても焼酎の味が残るようにすることだと思いました。なぜかと言えば、カクテルを作る時には、氷やジュースなどいろいろ混ぜていくために、アルコール度数が低い焼酎の味が薄くなってしまうからです。

Jacques Bezuidenhout(ジャック ベズイデンハウト)さん。ザ・リッツ・カールトン東京 「THE BAR」にて

――そこから「iichiko彩天」につながる開発プロジェクトが始まったのですね。

はい。早速、アルコール度数を40度まで上げたサンプルを日本でつくって送ってもらいました。常圧蒸留によるもの、減圧蒸留のもの、その両方を使ってブレンド比率を変えたものなど、いろいろなバリエーションが用意されました。どれを飲んでもすごく面白いと思いました。そのサンプルを使って実際にカクテルを作り、どんな味になるかを1つずつ試していきました。

ステアとシェイク、サワーと3種類作って、ちゃんと焼酎の味が分かるかどうか調べていったのです。この結果、サンプルの中の2つが、麹由来のうまみが強く感じられて、すごく面白く、興味深いと思いました。他のサンプルはシトラス系の味わいが前面に出ていましたが、それらよりも麹のうまみの強い方がいけると思った。ただ、アルコール度数を40度よりもうちょっと上げられないかという話になって、次のサンプルで43度に上げてもらいました。

こうしてサンプルをテイスティングしていく中で、後に「iichiko彩天」となるものを発見しました。「iichiko彩天」の魅力はうまみが通ること。一般的にバーで使われている度数の高いお酒とは全く異なるフレーバープロフィールを持ち、独自の味わいが含まれている点が、焼酎の面白さだと思います。カクテルを作るときに、無理に他のお酒と合わせなくても成立することが、焼酎の魅力なのではないかと感じました。

知り合いの腕利きのバーテンダーにテイスティングを依頼

――Jacquesさんはこの開発のために、知り合いのバーテンダーにも声をかけてくださったそうですね。

自分が好きだと感じていても、はたしてほかの人にその魅力が伝わるのかどうか少し不安だったので、宮﨑さんと話して、違う人の意見も聞こうということになりました。

Jacques Bezuidenhout(ジャック ベズイデンハウト)さん。ザ・リッツ・カールトン東京 「THE BAR」にて

声をかけたのは、Kevin Diedrich(ケビン ディードリッチ)さん、John Gertsen(ジョン ゲルツェン)さん、Marco Dionysos(マルコ ディオニソス)さんです。この3人はサンフランシスコでバーテンダーをやっていて、お互いに仲のいい人たちです。皆さん、すごくクオリティーの高いカクテルを作っていました。この人たちなら、焼酎について味だけじゃなくて、将来の方向性、可能性についても判断できるという自信がありました。

――最初にJacquesさんが選んだものと、その3人が選んだものとは一致したのでしょうか。

まずアルコール度数40度の段階で私が選び出した2つのサンプルを含めて43度に上げて、その他の試作品と共に味見してもらうことにしました。3人がブラインドでメモを取りながらテイスティングをした結果、3人の意見も、私の選んだものが一番いいという判断でした。うまみが通ることが決め手で、やっぱりそこは自分の意見と合っていたんだなと安心しました。

――満場一致したのですね。

はい。一人の意見を聞くよりは、多くの人の意見を聞く方が絶対いいですし、方向性が合ってるかどうかを確認することはとても大事なことだと思います。今回は意見が合ったので、そこで結論が出たのですが、もし意見が違っていたら、さらにいろんな方向で試していったと思います。

Jacques Bezuidenhout(ジャック ベズイデンハウト)さん。ザ・リッツ・カールトン東京 「THE BAR」にて

――こうして選ばれた「iichiko彩天」は、2019年に米国で発売開始になりました。その直前に初めて商品としてのボトルを手にして、それを飲んだ時、どんな印象でしたか。

すごくいい、面白い経験でした。ようやくここまで来たんだなと感慨深く、幸せに感じた瞬間でした。その後は最終確認ということで、ニューヨークのケンタさん(後藤健太さん)とマサさん(漆戸正浩さん)にも声をかけました。この2人はニューヨークで本当にトップだと思うバーテンダーであり、日本人ということもありますし、絶対飲んでもらいたかったので。結果的に2人からもいいねとOKをもらいました。

お酒の背景にあるストーリーを説明することの重要性

――Jacquesさんは「iichiko彩天」の生みの親のひとりだったんですね。そういえば、Jacquesさんは、米国市場でテキーラの普及に尽力されたそうですが、その時にはどんなことに注力されましたか。

一番大切にしたことは、テキーラをつくる地域についての情報を発信していくことです。メキシコのお酒なので、メキシコの人々の家族観とか、文化、歴史、さらに音楽など、地域の全てを伝えることが一番大事だと思います。

焼酎ならばもちろん、日本について伝えることが一番大事ですね。日本といえば、料理もすごく大事なポイントです。文化もそうですし、国の美しさも。自然の美しさ、景色の素晴らしさ、そうした色々なものがこの1本のボトルに含まれているのです。蒸留法だとか、麹でつくられたとか、そういう技術的なことを伝えるだけでは十分ではありません。日本という国の歴史、文化などのストーリーを伝えることで、お客様に焼酎の魅力が伝わり、それが焼酎の普及にも繋がっていくのだと思います。


Jacques Bezuidenhout(ジャック ベズイデンハウト)さん。ザ・リッツ・カールトン東京 「THE BAR」にて

Jacques Bezuidenhout(ジャック ベズイデンハウト)

南アフリカ・ヨハネスブルグ出身。ロンドンでバーテンダーとして経験を積み、1998年にサンフランシスコへ移住。「Tres Agaves」のバーマネージャーとして同店を率い、2006年に「サンテ」誌の「Spirits Restaurant of the Year」受賞。その後、カクテル&スピリッツ・スペシャリストとして全米70店以上のバーやレストランの監修を担当。「Plymouth Gin」や「Partida Tequila」のブランドアンバサダーを務め、2011年に「Tales of the Cocktail® Spirited Awards®」で「Best American Brand Ambassador」を受賞した。

PlumpJack Groupと共に2015年「Forgery Bar」、2016年「Wildhawk」をサンフランシスコにオープン。両店はTales of the Cocktail® Spirited Awards®で全米トップ10ニューバーに選出された。2016年頃から「iichiko彩天」の商品開発を務めた。現在、カクテルイベントや教育、ブランディング構築などを行っているコンサルティング会社Liquid Productionsに所属し、Industry Specialist(教育・ブランド開発担当)として活動。バーテンダーの教育やブランドコンサルティングに従事している。


    
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