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本格焼酎のつくり方:「一麹」前編~美味しい本格焼酎を目指す最初のステップ

作成者: WA-SPIRITS|2025/12/19 6:45:04

三和酒類で技術者、経営者として本格焼酎づくりに携わってきた「焼酎博士」こと下田雅彦(しもだ・まさひこ)が、本格焼酎の魅力を多角的に語り下ろす本連載。今回から、実際に本格焼酎の製造工程を順を追って説明します。ここでは日本の酒づくりの基本として古くから伝えられてきた「一麹(いちこうじ)、二酛(にもと)、三つくり」という格言に準じて解説します。まずは「一麹」。原料となる麦や米に麹菌を生やして(繁殖させて)麹をつくる工程のことですが、第2回は麹菌が生育しやすい状態にするための原料処理について詳しくお話しします。

⇒第1回「本格焼酎は『奇跡のスピリッツ』。その3つの理由」

 

語り:三和酒類  顧問 下田 雅彦 / 構成:井上健二、Contentsbrain

 

●「一麹(いちこうじ)、二酛(にもと)、三つくり」について
「一麹、二酛、三つくり」とは、古くから使われている日本酒づくりの工程上の重要度を示した格言で、良いもろみ⋆1 を仕込む(つくる)ためには良い酛(酒母ともいう)がなくてはならず、良い酛をつくるためには良い麹(日本酒なら原料となる蒸し米に麹菌を生やしたもの)が必要であるという意味です。すなわち、最初のステップである麹づくりが一番重要だということを示しています。蒸留酒である本格焼酎は、醸造酒である日本酒と製法が異なりますが、本格焼酎の製造工程の前半部分には、日本酒づくりのこの教えが当てはまります。


1 もろみ: 醸造用のタンクに、蒸し米(蒸し麦)に麹菌を繁殖させた麹、水、酵母などを入れて仕込み、でんぷんの糖化とアルコール発酵が進んだ状態のもの。これを漉(こ)して日本酒の原酒、あるいは蒸留して本格焼酎の原酒ができる。

第1回では、これまでの経験や研究を踏まえて、私が本格焼酎を「奇跡のスピリッツ」と呼ぶ理由を紹介しました。今回からは、本格焼酎の製法にスポットライトをあてて、その魅力をお伝えします。

本格焼酎づくりの最初のステップは、米や麦といった原料を、麹菌が生育しやすい状態になるように処理する「精白」と「原料処理」という工程、そして蒸した米・麦に麹菌を生やして米麹・麦麹をつくる「製麹」と呼ばれる工程です。原料に適切な水分量を含ませる処理の良し悪しによって、本格焼酎の品質は大きく左右されます。

ステップ1 麹原料と精白

精白米、精白麦が
本格焼酎の品質を左右する

日本酒づくりも本格焼酎づくりも、出発点となるのは麹づくり。原料に麹菌を生やすところから始まるのです。日本酒や本格焼酎では、一般的に麹をつくる原料には精白した米「精白米」を使いますが、三和酒類がつくる本格麦焼酎「いいちこ」では精白した麦「精白麦」(せいはくばく)を使っています。

ちなみに「精白(せいはく)」とは、米や麦などを搗(つ)いて皮を取り除き白くすること。玄米⋆2 を精白することを精米、玄麦(げんばく)⋆²を精白することを精麦(せいばく)といいます。また、精白した米のことを精白米、麦のことを精白麦といいます。


2 玄米、玄麦: 稲穂から一番外側の皮である籾殻(もみがら)だけを取り除いた、精白されていない状態のお米。同様に外皮だけを取り除いた精白されていない状態の麦を玄麦という。

麹菌を生やすのは原料の精米、精麦を済ませてから。そのプロセスにも手間暇がかかっています。

主食用の米を精米する場合、玄米の表層のせいぜい5%程度を削るだけです。ですから、比較的短時間で簡単に精米作業を終えることができるのです。

それに対して、日本酒や本格焼酎の麹づくりの場合は、玄米の表層から全体の10~30%ほどを削ります。精米の目的としては2つのことがあります。

第1に、玄米に含まれている余分なぬかや胚芽などを取り除き、麹がつきやすいようにすること。第2に、表層に多く含まれているタンパク質や脂質など、でんぷん以外の成分を取り除くこと。これらの成分の除去は原酒の香りと味に大きく影響するので、削る程度は製造方針と目標品質によって調整されます。

日本酒や本格焼酎のための精米には、酒造用精米機を用います。時間をかけずに1度で大きく削ろうとすると、摩擦熱が生じて米粒が割れやすくなるため、1台の機械で何度も循環させながら、少しずつ削っていきます。精米にかかる時間は70%精米(30%削る)で10時間ほどです。

一方、精麦というのは、小麦粉ではなく麦飯を食べる日本で発達した独特な加工技術。そもそも大麦は種皮が固く、胚乳の外側にタンパク質と脂質に富んだ厚い層もあるため、加工時に粒が割れやすい特徴があります。さらに種皮に覆われた粒の真ん中に凹んで入っている「黒条線」と呼ばれる麦特有の黒っぽい線が、単純に外皮を削るだけでは残ってしまいます。

凹んだ黒条線の部分の外皮までできるだけ除くために65~70%精麦(30~35%削る)します。精米は1台の機械で繰り返しでしたが、精麦ではさらに手間をかけて、役割の違う2種類の機械を十数台並べ、割れないように速さと負荷を調整しながら1台ずつ通して、丁寧に削っていくのです。

大麦の断面図。麦粒の真ん中の凹んだ部分に「黒条線」と呼ばれる溝があるため、米よりも精白が難しい

精麦の良し悪しは、麦焼酎の品質に直結します。そこで三和酒類では、精麦メーカーに協力してもらい、精麦の品質管理を徹底しています。

ビール、ウイスキーづくりに
精麦が不要な理由とは

ちなみに、麦焼酎の原料となる二条大麦はビールとウイスキーの原料にも使われますが、そこには精麦のプロセスはありません。本格焼酎と同じ蒸留酒であるウイスキーづくりをよく知る人は、本格焼酎づくりにおける精麦の重要性について説明すると、「なぜ麦を削る必要があるのですか?」と疑問に思うそうです。

麹菌を使わないビール、ウイスキーづくりでは、玄麦を浸水させて発芽を促します。発芽した麦(=麦芽。モルトともいいます)の内部の胚芽やぬか層に潜んでいる酵素が活発に働くようになり、麦のでんぷんを糖に変えてくれます。これを糖化といいます。ここでできた糖から、酵母の働きで発酵が進み、アルコールができるのです。

これは西洋では麦芽(モルト)、東洋ではカビ(麹菌)を利用して糖化に必要な酵素を得るという、酒づくり文化の違いなのです。本格焼酎づくりで精麦を行うのは、麦に麹菌を効率的に生やすためですが、玄麦を精麦してしまうと発芽せず麦芽にはならないため、ビールもウイスキーもつくれなくなってしまいます。

ステップ2 原料処理

米と麦では浸漬方法が
大きく異なる

「一麹」の前のもう1つの大事な工程として原料処理があります。

<洗浄→浸漬(しんせき)→蒸し→放冷>4つのプロセスからなる一連の工程です。これは、米や麦の一粒一粒に麹菌を生やしていくために必要な良い蒸し米、蒸し麦を得る、重要な最初の関門です。

浸漬とは水分を吸わせること。精白米、精白麦をきれいに洗浄した後、水に浸漬させて、その後蒸します。ここで大事なのは、原料処理の4つのプロセスを通して吸水をコントロールし、最終的に麹菌を育てるための理想的な水分量に調整して蒸し米、蒸し麦を仕上げることです。

<洗浄→浸漬→蒸し>という水を使う工程で吸水は刻々と進行していくため、現場のスタッフの経験と勘が求められます。浸漬工程で、精白米の場合は、通常十分に吸水させても水分比率が24〜26%あたりで上限値に達し、自然に吸水が止まるという性質があります。蒸しによる水分増加は10%前後で一定なので、最終的に水分比率34~36%の蒸し米が得られます。この水分比率は、酒づくりに使う麹菌が繁殖するために適しており、触ってみると粘り気の少ない硬いごはんといった感じです(酒づくりに使う麹菌には黄麹菌、黒麹菌、白麹菌という3種類がありますが、それは第3回で詳しく説明します)。

一方、麦は米よりもたくさん水を吸うので、浸漬工程の管理がより難しいです。麹菌が増殖しやすい水分比率が34~36%というのは、麦の場合も米とほぼ同様ですが、精白麦は、十分に吸水させると水分比率が60%近くまで吸水してしまうという性質があります。これでは水分量が多すぎて麹がつくれません。

麦を蒸した際の水分増加は米より少なく1~2%。この分を差し引いて、精白麦の浸漬工程では水分比率32~34%を目指しながら、水を吸わせ過ぎないよう調整することが必要です。水の温度によっても吸水速度が変わるため、温度に合わせて分単位の管理をしなければなりません。

一般的な本格焼酎づくりにおいて、麹づくりには米が使われていますが、それは原料処理が容易だからです。それでも、三和酒類をはじめ、同じ大分県内の本格麦焼酎づくりにおいて、麹づくりの原料として麦を使うことにこだわるのは、原料の味わいが最終的な製品の味わいに関与するから。つまり麦からつくった麹でしか得られない味わいを大切にしているからなのです。

こうして浸漬工程で、麹菌が繁殖しやすい水分量を含ませた精白米や精白麦をつくってから、蒸します。そして、放冷して麹づくりに適した温度まで下げてから、次のステップ「製麹(せいきく)」へと続きます。

⇒第1回「本格焼酎は『奇跡のスピリッツ』。その3つの理由」

 


主要参考文献:「日本酒」(秋山裕一、岩波書店、1994年)、「和食とうま味のミステリー」(北本勝ひこ、河出書房新社、2016年)、「現代焼酎考」(稲垣真美、岩波書店、1985年)、「焼酎の履歴書」(鮫島吉廣、イカロス出版、2020年)