「The World’s 50 Best Bars」、Tales of the Cocktail®の「Best American Cocktail Bar」「Best American Bartender」の常連である「Pacific Cocktail Haven(P.C.H.)」。独創性の高いカクテルが人気を呼んでいます。オーナーバーテンダーのKevin Diedrichさんに、新型コロナウイルスによるパンデミックがバー業界に与えた影響、バーの未来について伺いました。
⇒ 前編「独特の風味がある本格焼酎は、いろいろ試してみるのがとても楽しいお酒です」
文:鈴木昭 / 写真:三井公一 / 構成:Contentsbrain
取材場所:「Kenji」と「Loa Bar」(どちらも International House Hotel の1階 221 Camp Street New Orleans, Louisiana 70130, USA)
実は2017年に開いた最初の店舗は2021年に火災で焼失してしまったのですが(今の店舗をオープンしたのは2022年)、消失前の店舗を購入したのは2015年12月のことでした。すごく古い建物で、状態も悪かったため、購入した当初は内装をどうしようか決めかねていました。そこで、決めるまでの間は仮営業ということで店を開けていました。
本当にボロボロだったので、夕方5時から夜12時まで営業。閉店した後、明朝7時、8時まで自分自身で壁を剝がしたり改装したりして、その後でバーを片付けて、仕込みをして、また夕方5時に開店していました。半年間ぐらいそんな生活をしていました。そうして1年ほどかけて改装を終えたのが2017年でした。
まあ、壊したり剥がしたりは簡単ですから。ある日は壁を壊す。その次の日は別の部分の工事をする。ただ、私が工事をしている期間中もお店を営業していたので、お客さんも来てくださり、何が無くなったとか、どこが変わったとか見るのを楽しんでいましたね。バーが変わっていく様子を見たくて飲みに来ている人もいました(笑)。他にもいろいろ自分でやりましたが、新しく建てる部分は工事業者を入れました。私が作った壁では崩れてきてしまうので(笑)。
いえ。驚きました。考えてもいなかったことなので。私はこの業界が好きで、ホスピタリティーが好きだからやっています。コミュニティーの一部になってこの場所で人のお世話をしたかったから。バーテンダーをして、人をもてなしたかったんです。
妻が教えてくれた、私のお気に入りの格言のひとつに、「一生懸命働いて、人に親切にしていれば、それでどうにかなる」というものがあります。それがすべてです。私は人から称賛されるためではなく、働くために、ここにいます。自分の仕事をしているだけです。私のしたことにいい結果がついてきたのなら、私の周りに素晴らしい人たちがたくさんいたおかげです。決して自分ひとりで成し遂げたことではありません。私は沢山の素敵な先輩や、助けてくれる人たちに恵まれてここまでやってこれたんです。
コロナ禍の前と後での変化ですよね。沢山あります。パンデミック前と後では、世代が再定義されていると思います。この期間に私たちは多くのバーテンダーを失いました。特にベテランのバーテンダーたちを。そのため、ベテランの人たちによる指針やメンターシップ、今バーテンダーをしている若い人たちにとってのメンターとなる人が欠けてしまったと思います。
私がバーテンダーになったばかりの頃は、ベテランのバーテンダーがいつも私と一緒にバーのカウンターの中にいて、私は彼らから多くのことを学ぶことができました。そうしたバーテンダーたちがパンデミックの間に廃業したり、転職やリタイアをしたり、この国を去ったりしました。
それにより、古い世代と新しい世代の間に大きな穴が開いてしまいました。メンターシップが欠けてしまい、若いバーテンダーたちにとって必要な知識も欠けています。未来に向けた規範が必要な時に、成功の気配がありません。私たちの世代において、プロフェッショナルとしての大きな溝が生まれてしまいました。
未来についてですね。今からやるべきことがたくさんあるのは分かっています。1つの大きな変化は、ソーシャルメディアの存在ですよね。また、学ぶことへのアクセシビリティーが変わったこと、レシピを習ったり、テクニックを習ったり、新しい炭酸の使い方を習うのも全てオンラインでできます。
私が若かった頃は、誰かそのやり方を知っている人がいたら、その人物をまず見つけて、その人の電話番号やメールアドレスをどうにかして調べて、連絡をとってお願いするといった手順が必要でした。でも今は、私が「ベースメント・バーテンダー」とか「インスタグラム・バーテンダー」と呼んでいる人たちがたくさんいます。
彼らをバーテンダーと呼ぶのには少し抵抗があります。彼らは確かにカクテルは作っているけれど、バーテンディングをしているわけではないので。ですが、ソーシャルメディアは人々に、カクテルやお酒に関することを学ぶためのリソースを提供はしていると思います。
学校に通わなくても、特定の人を知らなくても、スマートフォンでYouTubeやInstagramを開けば、カクテルの技術や、何かお酒に関する新しいことを学んだり、リサーチすることができます。本格焼酎や日本酒、スピリッツについて学びたければ、すべては手のひらの中のネット上にある。それが未来で、私たちもそれに合わせていかなければならないんでしょうね。
ただね、前にも話しましたが、私がこの仕事を始めたのは、この業界が好きで、ホスピタリティーが好きだから。コミュニティーの一部になってこの場所や人のお世話をしたかったから。バーテンダーをして、人をもてなしたかったからです。ドリンク(お酒)ではなく、接客する人が大事なのだと考えています。
見返りを求めずに見ず知らずの人々をもてなすことは、特別なアートを築くことだと考えています。日本には「おもてなし」という見返りを求めずに行う素晴らしい術がありますよね。私がしたいのはそれです。「おもてなし」の心で、バーをやっているだけなので、その先に未来があるのかもしれない。
⇒ 前編「独特の風味がある本格焼酎は、いろいろ試してみるのがとても楽しいお酒です」